2021年4月1日より株式会社タウンアートは、アートプレイス株式会社に社名を変更いたしました。
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アートを「私たち事」に | 埼玉県立小児医療センター


埼玉県立小児医療センターはさいたま新都心に新築移転し、今年12月に1周年を迎える。新病棟にはタウンアートがディレクションしたアートワークが随所に施されている。オープンから1年が経とうとするなかで、アートワークはどのような存在となっているだろうか。その後の流れを追った。そこからみえたものは、医療施設に限らず公共空間におけるアート全般に通じる課題に取り組んだ「パブリックアートの現在」だった。

アートをひとごとにさせない

公共施設におけるアートワークは建築設計と共に計画されることが多いため、建物の引き渡し以降は、制作関係者が継続的に作品に関与することが難しい。つまり作って終わりという状況だ。この現状が時にアートワークの孤立化をまねくことがある。アートに主体的に関わる人が、ともすると計画には全く関わってこなかった施設スタッフを含めた利用者に移行するからだ。アートに込めた思いが伝わっていかず、アートがひとごと化すると途端にその価値を問われてしまう。そうしないために、参加型のワークショップを作品制作の過程に取り入れたり、作品選定に関わってもらったりと利用者があらかじめ計画に関わる機会を作り、その趣旨を伝えアートに愛着をもってもらう取り組みを、タウンアートは今までのプロジェクトにおいても積極的に行ってきた。

本プロジェクトでは、引き渡し完了時にアートの缶バッジを作り、看護師全員に贈った。またアートワーク群の中核として作られたキャラクターは、院内の配布物等で活用できるようイメージデータを提供し、スタッフが自主的にアートに関わる仕組みを作った。そのためか、オープンから3ヶ月後には、看護師たちの胸には缶バッジがつけられ、医師分の追加オーダーがあるほど好評を博し、誰もがキャラクターたちの名前を言えるようになっていたという。スタッフからは院内各所にいる立体キャラクターが子どもたちに人気だという話もあった。アートをひとごとにさせたくない、働くスタッフたちに根付かせたいという思いは少なからず伝わっているようだ。

「私事」と「公事」の間にあるアート

看護師や医師が能動的にアートに関わり、患者とのコミュニケーションツールとして活用している姿を見るに、そこにあるのはアートが「私たちに関連した事柄」だという共有感覚なのではないかと思う。つまり「私事」でもなく「公事」でもなく、その間の「私たち事」だ。この言葉および認識は、コミュニケーションデザインを専門とする渡辺保史氏がコーディネーターを務めたトークセッションで生まれた言葉「自分たち事」に由来する。私事ほど個人的なことではなく、かといって、他人事ほど無関係に自分とは切り離されたことでもない、その中間に自分たち事があり、共有のデザインを考える際に重要となるのではないかという考え方だ。この「他人事」を「公事」に置き換えると、パブリックアートにも当てはまるのではないかと思う。公けの事柄のように自分とは関係が遠いものでもない、「私たち事」という感覚をもたらすアート、それが現在のパブリックアートの姿なのかもしれない。

本プロジェクトでは、制作過程でアーティストとともにシンガーソングライターを招いてワークショップを行った。その後、そこで作られたオリジナルソングを時報に使い、アーティスト監修のもと地元の工業高校の生徒たちがその時報のアニメーション制作を行った。まるでバトンを繋ぐかのように一つの事象が次のアクションを呼び、参画する人々を増やしながら、最終的にアートワークという形でスタッフたちの手に戻ってきている。アイデアが次のアイデアへ繋がるという創造的な流れが徐々に出来上がったことが、関わる人々に「私たち事」だという感覚をもたらしたのであろう

当然のことながらスタッフや医師は中長期的な時間を経て少しずつ入れ替わってゆく。今後新しく加わる彼らが、そこにあるアートワークを「私たち事」として意識することができるのか。できると期待すればそのプロセスが興味深いし、またその移り変わる人間関係のなかでアートがどのように変化してゆくのか、楽しみでもある。
(タウンアート編集部:天野澄子)

[イメージ]
アーティスト:海岸和輝、おもちゃのこまーむ、岸本真之、埼玉県立三郷工業技術高校、
tupera tupera、豊嶋敦史、野田奈津実、ビューティフルハミングバード(五十音順)
撮影:Gottingham、株式会社タウンアート

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