高知医療センターの小児病棟のアートワークは、高知在住の人気絵本作家、小笠原まきさんによってこのセンターのためにオリジナルストーリーをつくる、ということから始まりました。この病院のために生まれた物語、「大きなホープさんのおはなし」はアートワークとして院内環境全体に広がり、子どもや保護者、そしてスタッフの気持ちまでも勇気づけています。心に響き、希望を与えるその物語の全文をご紹介します。
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大きなホープさんのおはなし
小笠原まき
むかし、池のほとりにたいへん大きなポンカンの木がはえていました。
その木はご神木として人々に大切にされていました。
大きな木はずいぶん長くそこに立っていたので、自分が動けないことを、
とても もどかしく思っていました。
木のまわりで遊んでいる子どもたちをながめながら、
ころんだ子をだきおこしてあげたい・・・
泣いている子の涙をふいてあげたい・・・
と思っていました。
ある日の夕ぐれ、いつも いもうととけんかばかりしている男の子が
一人でやってきました。
男の子はいきなり大きな木に抱きついて、
「よいしょ、よいしょ」とのぼりはじめました。
大きな木は〈あぶない!あぶないからおりて!〉と心の中でさけびました。
男の子は一番ひくい枝になった大きなポンカンの実をもごうと、
木にしがみついたまま手をのばしました。
〈あっ、あぶない!〉と大きな木が思ったとたん、
男の子は地面へとすべりおちてしまいました。
男の子はひざをすりむいたものの、
すぐおきあがって大きな木にのぼりはじめました。
こうやって、何度ものぼってはすべりおちてをくりかえしているうちに、
あたりはすっかり暗くなってしまいました。
そのあいだ、木はただもどかしく見ているだけでした。
グスン、グスン、ウワーン!とうとう男の子は泣き出してしまいました。
「いもうとが・・・病気だからかみさまの実をたべさせたいんだ・・・。
そうしたら…きっときっとよくなるのに。」
すりきずだらけの男の子はそういって、
泣きながら帰っていきました。
大きな木は男の子を見おくりながら、
かなしくてかなしくてたまりませんでした。
そして、〈あぁ・・・かみさま、私にあの子をだきおこすうでをください。
私をどうか子どもたちのために生きる人にしてください〉といのりました。
すると、とつぜんあたりが昼間のようにパーッと明るくなり、
空から天使がまいおりてきました。
「大きな木よ、あなたにはまだご神木としてのやくめがあります。
ですが、あなたのやさしいいのりは天にとどきました。
一日のうち3時間だけ人のすがたにしてあげましょう・・・。」
そういって天使が手をひとふりすると、
木は大きな大きなおばあさんにかわりました。
そして一冊の本と羽のはえたえんぴつをおばあさんに手わたしました。
「この本にはまだ何も書かれていません。
ここにはあなたが地上でかなえたい夢を自由に書くことができます。
そしてこのえんぴつはその夢を描く時におつかいなさい。
あなたが子どもたちのために夢を描く時、
あなたのエプロンのポケットの中にカギがあらわれます。
そのカギを使えば夢を現実にすることができるでしょう。」
天使はそういいおわると、スッとすがたをけしました。
あたりにはふたたび夜がやってきました。
池のほとりにたたずんでいた大きなおばあさんは、
ハッとして月あかりをたよりに本をめくりました。
表紙にはホープ(希望)と書かれていました。
そしてページをめくり、まずさいしょにポンカンの実を描き、
― 病気がよくなるくすり ― と書きそえました。
書きおわるとすぐに、チャリリッとポケットがおもくなりました。
ポケットに手を入れると、ポンカン型のカギが入っていました。
・・・どうやってつかうの?・・・と思っていると、
おばあさんの描いたポンカンの絵の横にカギ穴がうきあがってきました。
カギをカギ穴にさしこむと、
なんと絵の中からムクムクとポンカンの実があらわれました。
おばあさんはその実をにぎると、
いそいであのすりきずだらけの男の子の家へむかおうとしました。
・・・でも・・・こんな大きな体ではみんなをびっくりさせてしまう・・・
そう思ったおばあさんは、また本のページをめくり、
今度はちいさな人型を描いて、
―私のお手伝いをしてポンカンの実をはこんでくれる妖精―と書きました。
ポケットに手を入れると、小さな人型のカギが入っていました。
いそいでカギをさしこむと、
小さな妖精がでてきてすぐにポンカンの実をころがしながら、
男の子の家の前まで運んでくれました。
そしてのこりの時間をつかって、
いっしょにはたらいてくれる妖精たちをつぎつぎに描いていきました。
3時間がたつと、おばあさんはまた、
大きなポンカンの木にもどっていました。
それからおばあさんはホープと名のり、
毎日3時間だけ人のすがたになって、妖精たちといっしょに、
子供たちのためにはたらくようになりました。
その後、池のあった場所に大きな病院がたてられ、
ホープさんと妖精たちは病気の子どもたちに夢をとどけるために、
病院にすむようになりました。
その病院が高知医療センターです。
今もみんなのためにホープさんは本を作りつづけ、
妖精たちはたのしくはたらいています。
ほら、耳をすましてみてください。
妖精さんたちが歩く足音がきこえてきませんか?
人はみんな、まっ白な本を
むねのおくに持ってうまれてきます。
希望をもって夢を描くために・・・
しあわせな夢をかなえるために・・・。
※オリジナルストーリーの全文は、デイルームにレリーフとして設置されています。