『花蓮平地森林園区国際藝術節』
-Taiwan・Danongdafu Forest Park 2011 Masadi international Art Festival –
台湾屈指の景勝地として有名な花蓮県で2011年5月21日~7月23日(土)の期間で開催されています。
日本人作家を含む8組のアーティストを招待して実現したこの屋外型国際芸術祭。
数年に渡って苦楽を共にし、プロジェクトを協働してきた”同志”でもあるこの芸術祭の総合ディレクターの呉さんに、現地を案内して頂きながら、見てまいりました。
台北から花蓮までは国鉄特急で約2時間。そこからさらにレンタカーで走ること90分。
これまで何度も台湾を訪れてきた私にとっても花蓮県まで足を延ばすのは今回が初めて。そこには目を見開くような素晴らしい自然が広がっていました。彼女が花蓮県を舞台に選んだ訳を、すぐに感じることができました。
国道に沿い太平洋沿岸を南へ。
青い空、次第に深まる緑の中に、黄色のフラッグがパタパタと風にはためき始めました。
これが芸術祭会場までの道しるべです。
フラッグに沿って会場へ到達すると、早速呉さんが笑顔で出迎えてくれました。
(← 道しるべのフラッグ)
日本ではポピュラーな芸術祭となった越後妻有トリエンナーレに刺激をうけ、新潟の「水と土の芸術祭(2009)」や「瀬戸内国際芸術祭(2010)」で台湾出身作家「王文志」のバンブーハウスをディレクションする機会を経て以来、呉さんはここ数年の間、「台湾の豊かな自然の中で現代アートの祭典を実現させたい」と夢をもって取り組んできました。その努力が実を結んだのがこの『花蓮平地森林園区国際藝術節』なのです。
日本では地域振興が謳われ、まちづくりやまちの活性の1つの方法として、以前に比べてアートイベントの開催が急増している今日ですが、台湾で、しかも都心から離れた地方の一角で、この規模の現代アートの屋外型国際芸術祭が開かれたことは過去を遡っても記憶にはありません。
熟考を重ねて会場とするべき相応しい場を探し、調査し、行政と掛合い、説明・提案を繰り返し、委員会を立ち上げ、実行予算を確保し、さらには会場設営の土木工事から広報活動まで…これまでに前例のない芸術祭を実現するには地道な努力と相当な苦労があった事がうかがえます。何よりも、彼女の熱意とアートの力を信じる強い信念があったからこそ、行政を動かし、賛同する協力者も集まったのだと思います。
『花蓮平地森林園区国際藝術節』は今後も、どのような形式をとるかは検討中との事ですが、行政の大きな理解と協力を得て、継続されていく事となるようです。
2011年、芸術祭スタートとなった今年は常設作品は8つのみでしたが、少しずつ、この藝術際が成長していく予感があります。
次回は、国立公園にも指定されている花蓮県の豊かな自然に囲まれて、現代アートを体感してみてはいかがでしょうか。
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海岸から少し内陸に入り、背景に山脈を望むこの平地森林園区は、素晴らしい環境条件を揃えていながら人々にその存在を少々忘れ去られていた農林地域にあります。
貴重な生態資源も残るこの地区に現代アートを配し、芸術祭の舞台として取り上げることで、世界的にも驚くほどの速さで消滅しつつある森林について見直す機会を投げかけました。
また単なる地域の森林公園としてだけでなく、交流や教育の場としての新たな価値が付加されて地域の多角的な需要にも応えられる空間となったため、これを機にこの園区内には、行政によって遊歩道やビジターセンターも整備される事となりました。
それでは、芸術祭での常設作品のいくつかをご紹介しましょう。
高田洋一(日本) / 傾聴森林的花
Yoichi Takada (Japan) / Flowers, Listening to the Sound of Forest真赤な人工花が緑の中で風をうけ、なびく。森の音を聴く花たち、というこの作品群は、遊歩道沿いに微かな音をそよがせ、風の存在を伝えていたのが印象的でした。
フローリアン・クラール(ドイツ、日本)
/ 陸上行舟
Florian Klaar (Germany,Japan)
/ Vessel Projects Part V – Molly Aida
Vessel Project の飛行船がこの芸術祭にやってきました。
38mものスケールは圧巻で、このボリュームがまるで森の中を飛行するような様は、重量感と浮遊感を同時に感じさせ、今にも動き出しそうな迫力が見る人を驚かせます。普段一週間かけて組み立てるこの作品を、今回は、たった4日で組立てたそうです。
梁豫漳(台湾)/ 流轉
Yu -Chang Liang (Taiwan) /Turning
ニレの間伐材を幾重にも重ねた作品「流轉」は、多様な空間のレイヤーを見せ、中に入るとその間を樹々や空、風が通り抜け、アートと自然の饗宴を体感できます。
繭裹子(台湾) / 鳥屋
Twine (Taiwan) / Bird House
ウールで制作されたカラフルで大小様々な形を見せるバードハウスが、まるで木の実のように木立にぶらさがっています。遊歩道に沿って配置されているので、誘われるまま茂みに足を踏み入れて、触れて楽しむことができます。鳥以外の住人がハウスを占領していたものもありました。大自然の中で、なんとも文化的且つアーティスティックな暮らしぶりです。きっと住み心地も抜群なのでしょう。
n ARCHITECTS (米国)/居所 ”Home is Your Habitat, Habitat is Your Home”
連続・反復・拡張する姿を見せるこの空間は無限の可能性を秘めた空間であり、台湾の持つバイタリティを表現しているといいます。竹と松が空気を編むように軽やかなしなりを見せ、環境に溶け込んだ、外でも中でもない「居所」を形成しています。
顏名宏 (台湾) / 春之花園
Ming-Hung Yan (Taiwan) / Spring Garden
流木と間伐材で作られたシェード空間。この作品の中に足を踏み入れると、その隙間から周囲の環境を覗き見ることができる適度な透け感が涼やかで、暑い夏の台湾にいる事を忘れさせられます。内部は陽の光と心地よい影が、まるで春の木漏れ日の中に居る様に混在していました。踏みしめる木肌の柔らかさを足元に感じながら、同時に驚くのは、スライスされ継ぎ合わされた木片の放つ薫り高いその芳香です。切られた木片のシェードに守られるかのように、これから伸び行く命ある生木の存在が対照的な姿を見せていたのが深く記憶に残りました。
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アートが存在することで、元来そこにある自然に目がむかう。自然の中で見るアートワークに、生きるものの息遣いや生の営みを感じる。少し足を延ばして、日常と違う環境でこういった体験をすることで、私たちは立ち止まり、振り返り、気付いていなかった「何か」に気付き、忘れていた事を思い出し、あるいは全く知らなかった事を知ることがあります。屋外型のアートイベントでは、アートと自然の見せる相互関係が、特にそういった「きっかけ」を見つける機会を、たくさん与えてくれると思います。
会場を訪問したのは月曜日。平日でしたが予想以上にアートを楽しむ人々を見掛けました。呉さん曰く、週末はもっと人出があるとのこと。
台湾ではパブリックアートプロジェクトの特に重要な事項として市民参加プログラムが位置づけられており、この藝術際も例外で無く、常設の8作品以外にもプロジェクトの一貫として市民が参加できるワークショップや散策ツアー、夜のコンサートなど幅広いイベントを数多く企画しているからなのでしょう。
すぐお隣の異国、台湾。羽田空港から台北市中心に位置する松山空港への直行便の運行が開始されたこともあり、とても便利になりました。例えば朝7時に東京を発てば、10時半には台北市内で朝粥をいただける距離です。今回は観光地・花蓮県での芸術祭をご紹介しましたが、アジアを代表する都市のひとつ、熱気溢れる台北のアートシーンも、とても元気です。
福岡の済生会飯塚嘉穂病院でお仕事をご一緒した作家の岸本真之さんが現在出展されている、台北市内の展覧会も併せて見てまいりましたので、次の機会でそちらの方もご紹介できればと思います。
M. Watanabe