台湾・台北市 / 地景装置展 -藝術在風左右-
– Taiwan・Taipei City / Land Art Installation Exhibition -ART with WIND-

台北市・天母エリアの街中を舞台に、今年で3回目となる展覧会‘Seed Project’が開催されています(2011年6月4日~8月7日)。今年のテーマは ‘Art with Wind’。
日本人作家・岸本真之氏を含む6人のアーティストたちがローカルコミュニティに入り込んで、真夏の天母、都市環境の中に芸術の風を吹き込んでいました。

このプロジェクトは、立偕建設という民間企業が台北市の7つの場所に新しく開発建設工事を実施するに際して、ただ開発するだけでなくそれらの地区の環境を見直す活動をと、古い低層建築を利用して行うリノベーションプロジェクトの一環として計画しているもので、都市の新旧の空間互換の中で、より人々が親しみやすいように工夫を凝らしながら夢の種を撒き、市民に楽しみながら環境を一考させるきっかけをうまく与えている事例だと思います。

2009年にはプロジェクトの第一弾として’Art with River’(藝術在河左右) と題し、台北市内を流れる基隆河の河岸を舞台に台湾人アーティスト6名の作品を配して開催されており、今はMRTも開通して大発展を見せた内湖で河(川)の環境を、2010年には第二弾の’Art with Mountain’ (藝術在山左右) と題して都市の中にアーティストの表現する様々な「山」の情景をアートで描き出し、見る人に新鮮な驚きを与えていました。2010年のこのArt with Mountainでは6名の作家の内、日本から中谷芙二子さんが霧の作品を発表されています。
さて今回のArt with Wind では、そのテーマが現すように、6名の各作家がそれぞれ の方法で「風」、そして街に流れる「空気」のようなものを表現していました。 その内のいくつかをご紹介します。

台北の街の雑踏の、見過ごしてしまうような場所に、空気のように存在する作品は Joshua Callaghan氏(米) による風景を切り取った写真の作品。 周囲の環境を映す鏡のようでありながら3Dでその景色を切り取って、街中の分電盤など当たり前に存在する設備ボックスに仕上げられている事で、改めて新しい景色として別の見解でその環境を認識させられます。

また、地域の憩いの場である「天福公園」には林建栄氏(台湾)の作品が点在していました。彼の玩具のようなファンタジックな作品は常に見る人に微笑みを与えます。 「いつもの公園」でこのバブル(泡)を想わせる頭を持ったユニークなキャラクターに出会った子供たちは歓喜の声を上げてその世界の中で駆け回って遊んでいました。

作品から浮かぶ風船は、風に揺られてゆらめいています。夜は頭部に明かりが灯り、光がついたり消えたり、ゆらゆらと光で風を見るような光景を描き出していました。
そうして暑い夏の夜にも人々は公園の木々の下でそんな様子を眺めながら、おしゃべりに花を咲かせます。現実離れしたアートを、日常生活の中であまりに自然に楽しむ人々の様子は、私にとっては少々不思議にすら思えました。

屋内展示のメイン会場の中では、岸本真之さんの作品を見る事ができました。 今回岸本さんは台北市内に3週間滞在し、今回の作品を制作したそうです。 3週間で完成させるにはかなりのボリューム。迫力ありました。

面白いことに、Art with Wind という今回のテーマを頭に描いてこの作品をみると、 いつに増してこの作品の繊細さにドキドキします。人の生活の一部のコネクションで成り立つこの作品ですが、人々の生活にある空気を感じさせるだけでなく、まるで「高層ビル」が立ち並ぶ未来の街を見るような想像を掻き立てます。間を吹き抜けるビル風まで想像してしまうこの展示空間が、いわゆる「無風状態」に保たれているということも、改めて感じて、何故か大袈裟なまでに風を感じてしまいました。いつものこの作品を見るのとまた違う観点で作品を見る、不思議な機会となりました。

さらに展覧会の最後には、岸本さんの作品の制作過程から生まれた、「人々の生活の一部」がつなぎ合わされたお土産がもらえます。そうして誰かの生活の一部が、他の人の生活の中に持ち込まれていくというのも楽しいシカケです。

前回のブログでも前述しましたが、台湾のアートプロジェクトは市民参加を重要視します。人々がアートをより身近に感じられるように、そのきっかけが数多く織り込まれ全体のプロジェクトを構成しています。
このSeed Project でも、期間中にツアーやワークショップが催され、その体験は多くの参加者の記憶に刻まれて、夢の種となっていることでしょう。
そして何よりも、ひとつの民間建設会社がこの長期に渡る計画を実行しているのは、メセナ活動としても大変意義の在ることだと思います。都市において、開発は避けられるものではないと思いますが、開発するだけではなく同時に、その場で新旧の相互関係について見直そうとする活動が営まれている、興味深いこのプロジェクト。
今後もその様子を見ていければと思っています。
M.Watanabe

*岸本真之さん関連プロジェクト: 福岡県済生会 飯塚嘉穂病院
レリーフ作品4点を納入いたしました。一筆書きの手法を用い、地域の風景やモチーフを
ひとつにつないだ作品です。あわせてこちらもご覧ください。