2008年に実施された『日本の手わざ』プロジェクトに新たな展開が加わりました。

『日本の手わざ』は、成田空港が日本の玄関口として「日本らしさ」をキーに空港内部空間を整備することによって、外国人のお客様には日本への期待感を高め、また日本人のお客様には帰国の安堵感と自国に対する誇りを持ってもらうことを目指し、日本の観光や文化に貢献しようと試みた和的整備計画です。プロジェクトでは日本人の美意識を読み解き、細やかな職人の手わざに着眼。陶や磁器、漆や蒔絵といった工芸的なものから土壁や竹垣等の建築的展開までを含めて、自然素材をうまく用いそこに美的感覚を付加して細やかに仕上げられているものたちを壁面アートとしてリデザインし展示しています。これは2008年当時のグッドデザイン賞を受賞し、そのテーマや目的、独自性や社会貢献度を高く評価いただくものとなりました。

11素材12点のアートワークが全長約500mのサテライト到着コンコース内に約40m間隔程度で設置されましたが、当時からもっと大きく、点数多く展開されていたらとの規模拡張を望む声が多く聞かれました。既存の建物をいかした改装工事であったため、壁面や天井裏の配管等の諸制限から必然的に設置可能な場所が限られたということが大きな要因でしたが、今年、新たに写真パネルを追加展示し、作品間をつなぐプロローグとしようとの計画が実施されました。写真パネルであれば、荷重負担が少ないため壁にそのまま取り付けることができ、また天井側もスポットライトを1灯取り付けるだけで済みます。写真は制作風景や工房の様子、職人の表情など、プロジェクト実施当時に職人の工房に通っては撮りためた数々のものを活用。どれも誇りに満ちた雰囲気の漂う素晴らしい写真です(撮影:初取伸一)。それらを大きな写真パネルとして、各作品本体へたどり着く前に通る壁に数点ずつ、その作品の職人に関連したカットを展示することで、作品への関心を高め、より楽しんでもらおうという仕掛けです。

先日、完成し既に公開が始まっているその現場を視察しました。節電対策による減灯が実施されるなか、ここ到着コンコースでは、ダウンライトやムービングサイドウォークの蛍光灯を消灯し、天井の間接光とアート用のスポットライトを点灯。追加された写真パネルの1灯1灯が定期的な光源となり、写真をひきたてながらも、歩くに支障ない光量を全体に確保している様子。アートにも必然的に目がいき、空間はドラマチックで印象に残る場へ様変わり。多くの旅客が目を向けて、なかには立ち止まって作品を見ていく人もよく見かけるようになりました。

長期的な設置に耐えうる作品作りは公共の場では重要なことであるため、経年変化による劣化が懸念される印刷物・写真パネルは時として敬遠されます。しかし今回の事例のように、劣化したら取り替えればよいという柔軟な思考をもって施設運用に取り組めば、展開の幅も広がります。恒久設置に耐えるしっかりとした作品展開で質の高い空間を創り出しつつ、そこに加えてテンポラリーな素材も組み合わせることで、常に心配りがなされた場を創りだし、利用者の関心や快適性につなげていく。施設運用のあり方・考え方がいかに重要であるかを思わせる事例となりました。

最後に、お客様にとってよりよい空港づくりを追求し、日本を代表する国際空港としての誇りを持って、この追加整備を自ら企画し実行した成田国際空港株式会社様と、センスと熱意でライティングコントロールを含め総合的な空間作りにご尽力された、空港会社内のご担当者様に敬意を表します。

(天野)