1997年設置の錦糸町北口交通広場にある、ローレン・マドソン作品の補修工事を、2008年10月より行いました。
作品設置より10年以上経過し、表面の剥離や色むらなどが起き、作品はもとより空間全体の雰囲気によくない影響を与えていると考え、再塗装を含む補修工事となりました。

タウンアートは、作品設置=完了ではなく、作品が置かれている環境を常に意識し、清掃メンテナンスの必要性をクライアントでもある役所側に働きかけてきました。その地道な努力の積み重ねにより、大規模な補修工事が実現できることになりました。

私たちは、作品が社会にでていったあとも、常に美しい状態であってほしいと願っており、そのために、瑕疵保障やメンテナンス、清掃マニュアルを作ったり、管理者側へのアドバイス、相談に乗っています。それは、作者であるアーティストや、制作者(職人)、そしてなにより作品の受け手である作品を見る側の人々に対する私たちの責務だと考えています。

今回、実際の補修工事がどのように行われたのか、抜粋してご紹介します。

作品概要

アーティスト:Loren Madsen
タイトル: “ECHO”
仕様: ブロンズ鋳物、SUSワイヤ

1997年に設置されたこのアートワークは、錦糸町北口地区再開発事業の一環として、交通広場の換気塔を利用したパブリックアート計画として始まりました。直径約7mのブロンズの輪は、ヘ音記号がモチーフとなっており、それを支える五本のケーブルは、五線譜を現しており、両側排気塔につながれています。また、換気塔壁面には、音楽史へのオマージュとして、世界中の著名な作曲家の主要な作品を作家が記号化し、図案化したものが描かれています。
(撮影: 安斎重男)

作業レポート

作業前


作品本体の塗装の退色と劣化がすすんでおり、全体的に色ムラがあり、部分的にはひびわれも起きています。特に本体の色ムラは、これまでのメンテナンス時の補修で使用したリタッチ塗装と周囲の塗装の退色の差が非常に大きくなり、メタリック塗装の反射特性から特に目立つ状態に至っていました。

足場設置、養生


作業用足場を設置し、養生用メッシュシートで全体を覆います。

下処理

このような塗装工事の場合、下処理としてケレン作業・欠損部の補修を行います。
※ケレン作業:塗装面の錆び落としや、脆弱になっている古い塗膜の除去をすること。


左:古い塗膜を削り取ります。 右:欠損部分を補修します。

下塗り

4種類の塗料を使用し、計5回の下塗りを行いました。

中塗り~上塗り


中塗りから実際の作品の色を塗装していきます。下塗りから合計8層の塗りをかさねて、完成に至りました。
塗料には、近年登場した低汚染型フッ素樹脂塗料を使い、今までよりも汚れにくくなるようにしています。

工事完了


補修工事が完了し、美しく塗りなおされた作品は、空間を華やかに彩り、駅前の雰囲気が明るくなりました。尚、2008年の全面補修工事完了以降も毎年ワイヤー状況の点検、2年に1度の清掃を行い、作品を美しく保っていくための作業を毎年行っています。

プロジェクト名称:
錦糸町駅北口再開発事業 交通広場 アート計画
事業主: 錦糸町駅北口地区市街地再開発組合
所在地: 東京都墨田区
納入年月: 1997年10月
アートディレクション:株式会社タウンアート
アーティスト:Loren Madsen