2010年に国立成育医療研究センター 臨床研究センターに作品を納めていただいた、作家の西谷拓麿さんからうれしいお電話をいただきました。

その内容は、「臨床研究センターに設置されている西谷さんの作品を見て、好きになりました。西谷さんの描いた動物たちは、きっと病気と戦う子供たちやそれを支える病院スタッフに力を与えていると感じました。」というメールが、ある個人の方から作家に直接届き、西谷さんの作品を購入してくださったそうです。さらにその後、作家が参加している展覧会でその方と初めてお会いすることとなり、直接お話をする機会ができたとのことでした。購入してくださった方は、アートのコレクターでも、日ごろアートに馴染みのある方でもなかったそうです。

このお話は、われわれアートプロデュースをした立場としてもとてもうれしい出来事です。
パブリックアートは、アートを観にいくという目的でない方にも、そして、あまりアートに興味のない方にも、目にしてもらうことができます。日常の暮らしの中で、各個人のその時の気持ちとそこにあるアートが結びつき、癒されたり、元気づけられたり、何かに気づかされたりする。そうして人の心が少し動き、心豊かになっていくことが私たちが望むパブリックアートの役割の一つでもあります。そして、アートに興味がなかった方が少しでも、アートやその作品のメッセージに興味をもち、展覧会に行ったり作家とつながったりすることで、また新たなコミュニケーションが始まる、そのこともまた重要な役割だと考えます。

作家は、その場所に設置するアートとして、自分の思いやメッセージを作品にこめて制作をします。その思いが利用者に届いたというエピソードは、アートは人の心を動かす力があるということを証明されたことでもあります。

そんなお話をきいた数日後、四谷メディカルキューブに納めた松田重仁さんの作品を患者さんが購入したいという問い合わせをいただき、うれしい知らせが続きました。

パブリックアートは、人をつつみこむ環境を快適にするということの一歩踏み込んだところにもまた、役割をもち、人の背中を教えてくれるものだと思っています。

そして、6月5日より、銀座のGALLERY MAKIにて西谷拓麿×牧孝友貴の2人展がはじまります。

Yumi Yoshida