デザインのつながり

TA:
「にほんごであそぼ」をやるようになってから「空間」に対する興味がわいてきたとおっしゃっていましたが、今回は小児科ということで、「子ども」という視点でもつながってくるかと思います。その点はいかがですか?
ひびの:
(子どもに関わるデザインに)向いてるんだな、と思いましたよ。それまで自分はとんがったものづくりをしているつもりでいて、どちらかというとアバンギャルドだと思っていたのが、自分の思い込みと違うところで自分が成長していったのが「にほんごであそぼ」だったんですよね。やってみてすごくいろんなことに気づかされました。
ひとつにはすごく衣装ということにこだわっていたけれど、実は空間もひとつの衣装だったということに気がつきました。それから、自分の色使いというのは、派手だと言われてきたけれど、きれいな色を使うのが好きだから、すごく子どもに馴染みやすいんだなとか。後は、わりと自然のモチーフが好きなので、そういうものってやっぱり空間のなかで馴染みやすいですよね。
そうやって、人が心地よくその空間に居るということを少し学んだり、身の回りのものを作るようになっているので、そういう意味ではこれまでのデザインが全てリンクしていってますよね。徐々に一般生活に落とし込んだことをやるようになっています。だから本当にこの病院の話がきたのは、ある意味、いいタイミングだったと思います。これがもうちょっと前に話をいただいていても着地しなかったかもしれません。
TA:
先端を行っている感性や発想から少し日常の中により作品が展開されていく経緯があって、今回のプロジェクトもうまく、自然とその流れに入り込んだということですね。
ひびの:
もう少し早かったら、とんでもない病院になっちゃったかも(笑)。それが途中、先生達とぶつかった部分だと思いますよ。それを軌道修正できたからよかったですけれど。
TA:
日常と非日常的な部分のバランスがとれたから、最終的にこういったかたちでうまく着地したのかもしれないですね。

空間の質の違いとデザイン:日常と非日常性

ひびの:
そうそう。外来診察室と病棟だと、病棟のほうが居る人にとって日常に近く、診察室は逆に子どもたちにとっては、テレビのセットに来たという風に思ったほうがいいんですよね。
TA:
そうですね。怖くない場所ではなく、楽しい場所に遊びに来たと思ってくれたら。
ひびの:
そういう風になる意味では、病棟とのメリハリが出来たんじゃないかなと思います。
TA:
外来と病棟階のあり方の違いについては、確かに先生方もそうおっしゃっていました。そうやって空間の質や使い方の違いを確認し、そこに対するイメージを少しずつ共有したという感じですね。時間はかかりましたが。
ひびの:
そうですね。

キッズデザイン賞と「子ども」に関わるデザインについて

TA:
このプロジェクトはキッズデザイン賞を受賞できましたが、「子ども」に関わるアートやデザインについて何かお考えはありますか?
ひびの:
いつも考えているわけじゃありませんが、子ども番組を通して、子どもに接しているから、こうしたいなとかはその都度ありますよね。でも基本的には、「子どもだから」という考え方をしないようにしています。
たとえば、黄色、赤、青みたいな原色を子どもは好きだと思い込んでいる人たちがいるけれど、そんな原色を本当に子どもが求めている?本当に子どもに聞いたことあるの?という話で。そこに微妙な色を持っていてあげないと、いくらまだ子どものいろんなものが発達していないにしてもあまりに単純すぎるでしょう。そういう大人が決めた子どものセオリーみたいなものが定例化してしまうという危険性がすごくあるなと思っています。子どもはもっと微妙なことを言葉や絵で表現できないかもしれないけど、でも感じていることは絶対にあるから、そういうことを決め付けちゃうっていうのが一番危険かなと。だから子どもでも親でも誰がみてもそこに居て気持ちいいなと思えるものを作ることのほうが目標ですね。たまたま私は色を使うのが好きだし、ベストかどうかわからないけど、少なくとも暗い絵を描く人ではないので、そういう意味では合っているとは思うけど、それ以上のものではないですね。
TA:
その基本的な考え方がこのアートワークにも入っていますね。先生方も、働く側、子どもを支える側の大人が心地良く居られる空間じゃないと、子どもたちにとって良い環境とは言えない、という考え方を持っていました。
ひびの:
そうそう、それは大きいですよね。診療室とか家具とかももっとやりたかったですね。
TA:
アートが入っていくことで少なくとも周りの家具は変わったというところを考えると、少しでもそういったことを増やしていくことが私たちの仕事のひとつなんだなと思います。
ひびの:
少しずつ一歩一歩ね(笑)。

アーティストにとってタウンアートは必要?

TA:
クライアント、設計者、私たちと、どういう関係性でやっていけるのがアーティストの立場として理想的ですか?
ひびの:
先生達ともっとフランクに話せるほうがよかったのかもしれないし、でもあまりたくさん話しても余計に分からなくなるということもあるので、今回のようなあり方でよかったと思います。やっぱりその辺はちゃんとタウンアートが私と病院の間に入ってくれるので、そこはブレていかないわけじゃないですか。私の立場も向こうの立場も立ててやってくれるので、それはすごくよかったと思いますよ。
多分、私が衣装をやっていても、演出家とは話しても、女優や役者さんと話さない、というようなことと同じです。演出家は役者のことを思いながらもプランナーのことを思って、全体のことを考えてアドバイスしてくれたり。あまりクライアントと話すのは、やっぱりものを考える上では邪魔になってくるというのはあります。あの人があのことをああいうニュアンスで言ったかな等、そういうことを客観的に聞けなくなってしまうのはやはり難しい。そこに入ってくれて、それで作ることのハウツーがあって、今までの経験がある人が入るというのはすごく大事だと思いますね。これだけ大きな規模になると、とてもじゃないけど、もしも私が直接やったら最後、もう2度と会いたくない感じになりそう(笑)。よほど気が合う人じゃないと。
TA:
直接話し合うシーンも一部では必要だと思いますし、一方で客観的に見れなくなってしまうというところを避けるために、言語の違いが特に発生してきたときのフィルターになる部分が必要だということですね。
ひびの:
すごい必要です。でも、いつもいろんなアーティストの方とやっていて、逆にどうでしたか。やりにくいとか(笑)。
TA:
やりにくいということはなかったです。どちらかというと今回は、先生方(クライアント)のデザインに対する意見が強かったということはありました。でも専門外である分野に先生方もどう伝えたらいいのか戸惑う部分が多かったのだと思います。だから言っていることの本質を探りつつ、一方でご理解いただくためのプロセス(議論の過程)を丁寧にもつということが必要で、それがこの長さになったんだと思います。

アート設置後の病院を訪れると…

TA:
丁寧なプロセスをもつということは、先生方の熱意もなければ続かないことです。でもこのプロセスがあったからこそ、出来上がったときには、人一倍喜んでくださいました。完成してからこの場所を子どもたちのために使っていくのは先生方なので、その人たちがこの新しい場所に対する愛情を持ちえたということは大きなことですよね。
運用が始まってから現地を確認しに行ったら、先生や看護師長さんですとか本当に喜んでおられて、感謝の気持ちを伝えてくださいました。
例えば、デイルームのテレビで「にほんごであそぼ」を見ている子どもたちとかお母さんが、これをデザインした人がここを作ったんだ、とちゃんと知っていたりもするんですよ。
ひびの:
そうなんだ、そういう情報がちゃんと行っているんですね。

ひびのさん:先生や設計者の皆さんと

TA:
先生達が話してくれているみたいで。
ひびの:
そこを使っているときにそういう話をしてくれるのが一番有難いですよね。頑張ろう!(笑)

<終>

建築名称:
福岡大学病院新診療棟 小児医療センター所在地: 福岡県福岡市城南区七隈
納入完了: 2010年12月アーティスト:ひびのこづえ