アートに対する愛着や想いを共通に持っている。
TA:
今回のキーホルダー化の実現には、PTA卒業対策委員会みなさんの想いや熱意があったことも重要なことだったと思います。
PTA:
これまで卒業記念品はカタログからセミオーダーしていたので、発注してオリジナルで制作するということが今までになかったことでした。ですから今年はいろいろとできたなという思いがありますが、自分たちだけ、想いがあるのかなと少し不安でした。でも保護者会で卒業記念品のアイデアと試作品を説明したときには「わぁ~」と感心してくれたり、子どもたちが記念品の箱を開くときには、時計とか期待していたらどうしようと心配もしましたが、「おお~!」という歓声があがって、(保護者である大人も卒業生である子どもも)皆同じような感覚でいてくれたということがわかって安心しました。
TA:
これまでに言葉にして確認することはなかったけれども、正門のアートへの愛着やこれが学校のシンボルだという感覚を皆さんが共通に持っているということが確認できた瞬間ですね。それはつまり、アートやモニュメントがあることによって、想いや感覚、記憶を共通に持ちやすくなるとも言えるかもしれません。
何か記憶に残るシーンを作ること、それが学校施設づくりに必要。
PTA(1):
大野田インタビュー05 (自身の小学校時代を振り返ると)自分の小学校の校舎には(ロダンの)『考える人』があって、校舎は忘れたけれど『考える人』については在った場所とか形とかよく覚えている。もしかしたら(『ユメノタネ』が今の子どもたちにとって)そういう存在になっていくのかなと思う。特に『ユメノタネ』は正門にあるから、卒入学の時の記念撮影などで一緒に入り、いろんな人々の思い出の写真に残っていると思いますので。
PTA(2):
(自分が卒業した)かつての大野田小学校の場合、渡り廊下が特徴的でした。他の学校とは違ってそれが特徴であることも当時から分かっていましたし、そのような違い、特徴のある場所を印象的に覚えています。
TA:
つまり小学校の施設づくりには、アートや校舎のデザイン等特徴的な「何か」、記憶に残るシーンを積極的に仕掛けておくことが必要になりますね。
PTA:
それから、正門のアートの廻りはいつもお花が咲いていてきれいに整備されています。栽培委員である子どもたちと地域住民のボランティアの方々が手入れしてくれていて、常に心地よい空間になっているのも大切ですね。
TA:
建物やアート作品が作られた当時のまま放置されるのではなく、人の手によって常に美しく維持されている。そういうところから記憶に残るシーンは作られていくということですね。今後の参考になります。本日は有難うございました。
インタビュー後記

武蔵野市立大野田小学校のアートプロジェクトは、パブリックアートの計画から制作、完成までのプロセスを公開し、アーティストや専門家だけでなく、子どもたちや市民など様々な人々が参加し共働しながら創り上げることによって、地域に永く愛されるアートとなることを目指したプロジェクトである。作品案の公募、展覧会や市民投票、子どもたちとのワークショップ(アーティストによる授業)等、市民参加・公開を軸としたプログラムを2003~04年にかけて実施した。
だからこそ、6年の歳月を経て、こちらから提案したわけでもなく、利用者側である保護者会からアートを卒業記念品としてキーホルダーにしたいとの依頼があったことは、アートが自然と地域に根をおろし、受け入れられていることを意味しているのではないかと思える、喜ばしい出来事だった。
今回、依頼をいただいたPTAの方々の子どもたちは、竣工以降に入学した子どもたちであるため、アートの制作過程には参画していない。つまり作品が地域に根ざしていくことについて市民参加型のプロセスがどの程度寄与しているかは、実際にはわからない。しかしながらインタビューを通して見えてきたことは、本計画で設置されたアートワークは、確実に地域の人々に愛される存在となっているということだ。そこには、設置以降の周辺環境の景観維持活動、アートを知ってもらうための広報活動が学校側・利用者側の協力のなかで自然と持続されていることに裏づけされる。その自発的な活動を導くには、市民の共感を呼ぶことがキーとなるだろう。その意味で市民参加型のプロセスを経て作品が完成していることは共感が呼びやすく、少なからず影響を与えているのではないかと思われる。
学校建築に「記憶に残るシーン」を積極的に創り出すためには、アートは有効な手段であるとともに、さらにそれらが地域に根ざす場となるためには、市民参加型のプロセスを持つということがひとつの解決方法であることは言えそうだ。

(天野)

建築名称: 武蔵野市立大野田小学校
所在地: 東京都武蔵野市吉祥寺北町
納入完了: 2005年3月
アーティスト:
カトウチカ、 Betsy Alwin、川崎 滋生