ギャラリーなつかで開催されている小河朋司さんの個展、そして同じく銀座にあるギャラリー椿で行われている鈴木亘彦さんの個展に行ってきました。どちらも初日ではなかったこともあり残念ながら、作家さんに直接お話を伺えなかったのですが、ここで少し作品を紹介させてもらいます。

まずは小河朋司さんの個展。主にアクリルパネルをもちいて、視覚的効果をねらった透明感のある爽やかな作品を制作しています。これまで、タウンアートでも東京警察病院看護専門学校神奈川県立こども医療センターなどたくさんのプロジェクトでご一緒にお仕事させていただきました。

今回の展覧会では、これまでのアクリルを用いた作風とは異なり、版画作品を中心とした一見とてもミニマムな作風。そういえば、看護専門学校のお仕事を一緒にやっていた頃、小河さんから「版画のプレス機をゆずってもらって、いじるのが楽しい」とおっしゃっていたのを思い出しました。作品は、版画のもつ静謐で、フラットな画面に正方形が上下二つ登場しています。上の正方形は色がついていて、下の小さな正方形はプラチナの箔押しとのことです。上の色のついた正方形をじっと見つめた後、視点を下に移し下のプラチナの正方形をみつめていると、そのまわりに上の色の残像がぼんやりとみえてきます。

また、小さなプラチナ箔押しの作品は、画面から飛び出してきたように、立体的に白い壁面を背景に美しくかがやいていました。ぼぉっとグリーンの影が白い壁に映りこみ、横から見ると小河さんの作品らしく、グリーンの蛍光塗料が見えました。

展覧会のタイトル「意識すればみえないことも みえてくる」~古道の森は一つの想像を膨らます装置として私を包む~とあり、コメントを呼んでいるうちに、これまでのアクリルパネルの作品とはマテリアルが異なりますが、小河さんの一貫した作品のテーマである”光“や”残像“というキーワードが見えてきた気がしました。過去の展覧会のパンフレットに、故郷の和歌山那智の自然への思いと、ふと山を登っているときに天を見上げると針葉樹からの木漏れ日(光)の見え方が作品の原点となっている旨が書いてありました。次に小河さんにお会いしたら、色々お話を聞いてみたいと思います。尚、この度の台風12号の被害により、小河さんの意向で、チャリティーの展覧会となり、売り上げを寄付されるそうです。

次に、ギャラリー椿に移動し鈴木さんの個展へ。鈴木さんとは、最近では足利赤十字病院でご一緒にお仕事させていただきました。

ギャラリー空間に足を踏み入れるとさわやかで涼しい気分に! 作品はガラスにアクリル樹脂をつかった涼しげな作品が沢山展示していました。平面作品から立体、そして今回は照明作品まで、素材もガラス、アクリル、ペイント、木など多岐にわたっていました。

展覧会タイトルは、-モノラロイド-。作家によると「それは光の屈折や反射などの効果を狙い、未だ見ぬものへの実験の試みのつもりでしたが、影や光のノイズは実態を曖昧にし、私的な「思い」のはぐらかしのようでありました。」とありました。

まず驚いたのが、照明作品。近づくと医療用の細い遮光瓶となんと注射器がたくさんつきささっていました!お医者さんの知り合いから廃棄処分となってしまう使い捨ての注射器をゆずってもらったということです。フレスコやビーカー、試験管など理科の実験道具が魅力的なインテリアになるように、この作品もなぜかとってもおしゃれな照明に見えてしまいました。

 

そのほかに、鏡の上にカメレオンやアコーディオンを引く男性がアクリル樹脂により重ねられた作品や、同じくアクリル樹脂の細かいドットの重なりにより、平面が球体に見える作品など。どれも実際に目にするとその質感が手に取るように感じられる、触感を刺激する(実際に触れるわけではないけれど)作品となっていました。鈴木さんのおっしゃるような“はぐらかし”は、この展覧会の空間に足を踏み入れて、実際に作品を体感することにより、もっともっと中を覗き込みたくなるけれども、じつは引いてみることでわかるアートということだったのかなと思いました。暑い夏の展覧会にぴったりのひんやりした展覧会でした。

二つの展覧会を見終わって思ったのが、小河さんの作品も、鈴木さんの作品も、いつも見ていると創作がきっと楽しいだろうなと思ってうらやましく思ってしまう(何か自分も創作したい!)と同時に、コンセプトや理屈をこえて、作品のたたずまいがただ美しく、いつもついつい作品に近づきすぎてじぃっと見入ってしまうのでした。

担当:藤沢