小児医療センターが完成してから1年以上が経過した2011年4月、小児医療センター長の羽田野先生、看護部 高桑看護士長を訪ねお話をお伺いしました。
(取材・編集:タウンアート 吉田)

周りの大人がリラックスできる環境は病児にもよい療養環境になる

旧小児病棟・外来は、看護師や保育士が絵や手作りの作品を飾って小児科らしさを演出していましたが、新センターでは、医療者側の小児医療におけるハード面でのこだわりを専門家・設計者・プロのアーティスト・アートプロデューサー・学生の参画によって、安全・癒しを重視した療養環境が完成できたと思っています。

アートのある療養環境はストレスを軽減できたとか?という質問においては、基準がないのでとても感覚的な返答になってしまいますが、当初計画から子供だけでなくスタッフや家族がリラックスできる環境をつくることが、病児にとってよい療養環境をつくれると考えており、その目的は果たせたのではないかと思います。

小児センターの環境を考えていく上で他の病院等も見学し、子供たちが好きな原色づかいのアートや全面に楽しい絵が描かれている事例もみましたが、自分たちはこれではスタッフがつかれてしまうと感じました。
大人の病棟とは異なり育ちの場所でもある小児病棟は、風景として子供たちの記憶として残っていくものでもあるので、背景として質のよいものがあればいいのではないかと思います。年齢別に階をわけることのできる大規模な小児病院の場合であれば、にぎやかな表現をしている場所がフロアーによってあることもいいと思いますが、ワンフロアーで構成されているこの病棟の場合は、入院期間も短くなってきていますし、求めることが異なる患児が入院しており、またご家族の方も余裕がない状況の方が多い中で、優しくゆったりとした背景的なアート環境が望ましいと思っていました。


母親がゆったりとした気持ちになれれば母乳の出もよくなるし、人力集約的な職場である医療現場は、スタッフの余裕とプライドがなければよい医療サービスの提供につながらないので、スタッフ環境の向上、とともに、大人がほっとする環境がとても大事ではないかと考えています。
実際、1年が経過しましたが、大人の病棟からこの子供の病棟にやってくるとほっとする気分になります。また質の向上した背景を利用して、さらに独自のアートをつくりだしていくドクターもいます。

子供たちの自由な創造力を発展させるきっかけづくり

子供たちにとっても、あまり全面をアートで覆いつくらされている場所では飽きてしまうと思います。アートのもつ自由な創造の部分を自分たちで発展させていけるきっかけづくりとなるようなアートがあれば、大きな子供も小さな子供もその年齢に応じて、創造して遊べるのではないでしょうか。アーティストの長谷川さんがそうしたところをうまくまとめてくださったと思います。

本来の子供らしさがみえたワークショップ

企画してくださったワークショップにおいて、普段苦しい治療や不自由な生活の中を強いられながら入院している子供たちが思いっきり絵をかいている姿は、本来の子供らしさをみたような気がしたというスタッフのアンケートの言葉がありました。スタッフで考えたお絵かき時間ではできない発想と行動力をアーティストや学生さんたちが実施してくれたことで、子供たちもそして親もスタッフも気づかされたことがあったように思います。ワークショップ後に入退院をくりかえしている子供の中に、1年後も壁画を眺めては、これは「私が描いたのよ」とお話をしている子供もいます。楽しかった記憶は、残っているようにおもいますが、ワークショップを経験していない子供たちにとっては、他のアートと同じであり、月日の経過とともに、ワークショップの思い出は、うすれていくと思われます。こうした活動が続いていくことが大事なのかもしれません。
(ワークショップの詳細はこちら→

プロジェクトデータ抜粋
建築名称: 名古屋第一赤十字病院
小児医療センター
所在地: 愛知県名古屋市中村区道下町
納入完了: 2008年11月
アーティスト:長谷川仁