快適なオフィス空間を創造するとともに、回遊性のある歩行者ネットワークをつくり 地域の活性化し市民の方々に楽しんでいただける場を有する公共空間を創出し、その公共空間に建築と一体化したパブリックアートを展開したニッセイ札幌プロジェクトを先頭にたってご担当されてきた 不動産部 和良地部長におはなしをお伺いしました。
建物の中で人々の活動が新しくなされる事自体が社会的な影響を与えることであり、民間の投資によって開発されたプロジェクトであっても建物の造る側の責任は大きい。都市再生にこそ社会的なメッセージが必要であるという思いがこめられたこのプロジェクトは、建築文化の向上をはかり、地域に根ざしたまちづくりを推進するため、地域社会の発展に貢献する創造性豊かな建築物として赤レンガ建築賞を受賞しています。

(タウンアート インタビュー: 吉田祐美 以下TA)


TA:
都市再生特別地区として整備されたニッセイ札幌プロジェクトは、札幌市および北3条西4という場所において、どのような地区の特性を生かして開発を進めたのでしょうか?また、どのようなエリア開発を目指されていたのでしょうか。
和良地:
この場所は、「にぎわいの軸」(札幌駅前通)と「うけつぎの軸」(北三条通)の2つの軸に囲まれた敷地であることが大きな特徴でした。まず、札幌の都心部に新たに開発投資を行う者としては、基本的に良質なオフィス空間の提供ということが基本にありますが、そのことだけに止まらず、都心でありながら赤レンガ旧道庁舎や北三条の銀杏並木等歴史的資源があるこの場所との調和を大切にこのプロジェクトを創り上げていきたい、単に景観的な調和だけでなく出来上がってくる空間がこの街に住んでいる人々や訪れる人々との関係性をどのように作っていけるかが問われるプロジェクトだと思っていました。建築的な解としては、回遊性のある歩行者ネットワークと、溜まることができ四季を通してイベント等が行えるシンボリックなアトリウム空間の創出でしたが、これらが地域の活性化、市民の方々に楽しんでいただける場になるということが、このプロジェクトの目指してきたところです。

付加価値を高めたアトリウム

TA:
不動産投資的に考えると、建物内に大きなアトリウムを造ることは、挑戦であったと思いますが、どのような思いでアトリウムを造られたのでしょうか?
和良地:
民間ビルのパブリックゾーンの創造を公開空地というかたちで展開することも可能でした。しかし、このプロジェクトの場合、駅前通りに商業空間 奥にオフィス棟が在り、その2つをどのようにつなぎ、同時にやわらかく分離するかがプラン上の大きなポイントであり、そのことの解が「アトリウムの創造」でした。実際、アトリウムによって快適性が提供できたと同時に、オフィス棟の付加価値が高まったと思います。また、あの大きさのアトリウムは、札幌市内、北海道において唯一日本生命札幌ビルだけでしょうから、希少性もあったと思っています。
TA:
札幌の気候が上記のことに加え、アトリウムの創造ということにもつながったといえるのでしょうか
和良地:
札幌において外の空間は、半年は雪や寒さのために皆さんが溜まる場所としては使用できないので、都市再生特区に指定される時に、行政の方ともお話をして外部ではなく内部空間に、人々が溜まれる四季を通じて市民の方々に楽しんでいただける場の創出を実現しようということになりました。
TA:
札幌駅から大通公園までの地下歩行空間の創設やこのビルに隣接する北三条通りを広場として使用変更するなどの計画は、このプロジェクト構想時に出来上がっていたのでしょうか。
和良地:
地下歩行空間の創設は、このプロジェクト前にすでに都市計画決定されており、沿道ビルとして接合するビルの第一号に位置づけられました。このビルに隣接する通りであり、赤レンガ旧道庁舎を背景に歴史的銀杏並木を有する北三条通りを広場として、公園のように人々に憩う場所を提供しようという計画は決定しておらず、将来の夢でした。しかし、現在はその計画は都市計画決定がなされており、現実のものとなるのも近いでしょうね。

アトリウム / Claudia Okonek

建物をつくるという行為がメッセージを発している

TA:
夢みていたことが実現できることはすばらしいことですね。そのことによってまた、あらたな街の交流がこのエリアにおこる予感がします。
次に、建築物は、どのような社会的な影響をあたえると考えていらっしゃいますか。また、その考え方をこのプロジェクトで実施することができたでしょうか。
和良地:
その場所にある「建物」をつくるという行為そのものが、都市に対してなんらかのメッセージを発することだと思っています。そのメッセージは、集まってきた人々、働いている人々の心とシンクロしてより強いものになっていく、建物はモノではあるけれど、その中で人々の活動が新しくなされるというコト自体が、社会的な影響を与えることであり、建物を造る側の責任は大きいと思っています。
また、作る側の想像を超えた人々の行動や思いに接することもあり、そうした部分は作る側の楽しみでもあります。たとえば、このビルで働く方から、「出先からこのビルに戻ってくると『ほっとする』『帰ってきた』という気持ちになる」という言葉をお聞きしました。この場が人々の日常の中にあることの表れだと感じ、大変うれしく思っています。
TA:
民間ビルにおいて、パブリックゾーンをどのような位置づけとして計画を考えていらっしゃいますか
和良地:
共通することは、街に住んでいる方、この場所を訪れる方との関係構築の場であるということです。
このことを軸に、街ごとに性格が異なるので、その街にあわせてビルの中に位置づけて計画をしていきます。

空間のボキャブラリーを増やし、交流をつくるパブリックアート

TA:
開発計画をご担当される立場から、オフィス、テナントビルにおけるパブリックアートにどのような期待をもっていらっしゃいますか。
和良地:
アートを入れることによって空間のボキャブラリーが増え、訪れた方々の会話を豊かにするなど、交流をつくるきかっけになることだと思うので、パブリックアートの導入はとても大事ですね。
TA:
今回のアートワークはその期待に答えられたでしょうか。
和良地:
答えられていると思います。
建築デザインとの一体性もうまく作り上げてくれたので、とても空間になじんで快適な場所を作り出し、付加価値を高めてくれていると思います。

サンクンガーデン / 豊嶋敦史

まちづくりとの関係性に着目したマスタープラン

TA:
「ずっとそこにあるパーマネントのパブリックアート」にたいして、開発のお立場としてどのように感じていらっしゃいますか。
和良地:
札幌はアートと市民の方々が近いところにある街です。「雪祭り」や市民の方々から盛り上がった創作ダンスフェスティバルである「YOSAKOIソーラン祭り」など様々な要素を持っていますし、公共も民間もパブリックアートを導入しています。しかし、欲をいえばマスタープランがあって、それぞれのアートが有機的な関係性をより強くもつようになると、もっと意味が深くなってくるのではないかと思います。一つのコンセプトでネットワーク化していけば、もっとちがう楽しみ方ができるのではないか、それだけでなく、都市産業としてアートという切り口で都市を活性化することができるのではないかと思います。すでに、世界的にもそうした試みをしている都市はたくさんあり、歴史的にも芸術的なものをたくさん持っている日本は、それらをうまく結びつけてプロデュースしていくことが必要なのではないでしょうか。都市を再生するというのは、装置を再生するだけでなく人々の活動に変化を起こすことであり、パブリックアートもその要素としてとても意味のあるものだと思います。

人の心に変化がおこれば、ライフスタイルの変化につながる

TA:
作品に内包されている社会的なメッセージは、こうした都市開発において意味があるものとお考えでしょうか。
和良地:
作品のメッセージを受け取り手がどのように感じるかはコントロールできるものではないですが、そこで発せられるメッセージは、プロジェクト全体を通して作り手側でも言いたいことであり、発信していくことはとても意味があると思っています。アートを通して、人々の心に変化が起これば、人の活動、ライフスタイルの変化につながる、それこそが、都市再生の真の姿ではないでしょうか。
都市再生にこそ社会的メッセージが必要だと思います。
TA:
長時間お答えいただき本当にありがとうございました。

インタビュー後記

現在も時々日本生命札幌ビルを訪れるが、オープンして1年が経過した現在も多くの市民の方々が地下から地上へ通り抜ける道として利用したり、アトリウムのイスに座って憩う姿がみうけられる。これはまさに公開空地の有効利用といえるのではないだろうか。
札幌は、短い夏は外で過ごす時間を楽しみ、半年雪でおおわれている冬季は、地下道を利用しながら様々なコミュニケーションを図っている。そのコミュニケーションの場を提供したいというインタビューを受けてくださった和良地部長をはじめ、クライアントの方々、このプロジェクトに関わった方々の思いが、人々に空間を通して伝わっている光景である。
北海道の美しい風景に対して常に心を開き、大切にしていくと共に、自然は永遠に我々を映し出す鏡であることを意識していかねばならないというメッセージをこめた作品「四季の命」、炎の姿が街と未来に光を灯す指標となって欲しいという願いをこめた作品「Torch(トーチ)」、この2つのアートワークを公開空地で人々がふれることができる場を創造したことは、文化的に成熟した街として栄えていくようにようにという開発者としてのメッセージでもあり、投資でもある。
インタビューを終え、「民間ビルであっても街に大きく存在する建物は、やはり 公共的な責任を担っている」というお話のように 公共という概念をしっかりと携わる人間が考え、豊かな公共をつくりあげることがとても大事だと思った。
(インタビュー: 吉田祐美)

建築名称:日本生命札幌ビル
所在地:札幌市中央区北3条西4丁目1番1号
(アトリウム)納入完了:2009年4月
アーティスト:Claudia Okonek
(サンクンガーデン)納入完了:2011年3月
アーティスト:豊嶋敦史