AOBA+ARTとは、横浜市青葉区にある閑静な住宅街「美しが丘」を舞台に、まちなかで展開されるアートの展覧会です。アーティストの本間純さんが発起人となって2008年から毎年開催されてきました。4回目となる今年は、私たちもプロジェクトでご一緒した谷山恭子さん岸本真之さんなどが出展され、楽しげな様子。土日に開催されるツアーに参加して作品鑑賞にお出かけです。

まずは最寄りの田園都市線たまプラーザ駅へ集合。

出展者であるアーティスト自らがツアーガイドとなって案内をしてくれます。かわいらしい旗をもって15人ほどの観客を引き連れて、たまプラーザのまちなかへ。まっすぐ美しが丘へ行くのではなく、商店街に古くからある珈琲屋さんへ立ち寄ってコーヒーソフトを食べたり、まちを堪能します。

インフォメーションセンターは鮮やかな赤が青空の下に映えるテントブース。ここから住宅街へ入り込んでいきます。

まずはじめに、池田光宏さんの「青葉食堂」です。これは黒板にその日の夕飯のメニューを書いてもらって玄関先に掲示してもらうというもの。初年度から始まって20軒以上の個人宅が参加してくれています。4年続けているといろんなことが起こります。

こちら(写真左)のお宅では、レストランと間違われてディナーの予約の連絡が入ったそうです!こちら(写真右)は飼っている猫の絵のみというアレンジ。もはやメニューではありませんが、池田さんいわく、黒板を通してそこに住む人々のことを想像してもらいたいから、それも有りだそうです。

本間純さんの作品は、風景のなかに人や猫などそこに関係したものが溶け込んで存在するというもの。この庭師の作品は、展示終了後、別のお宅で引き取って保管されることとなり、家と家の間で固有の風景が移植されるという、また新たな意味をもつものとなりました。

谷山恭子さんは公園の3箇所に緯度と経度の交点を示す作品を展示。一見、道端の小花のようなこの作品は、実は小さく緯度・経度が表記されたリボンを草むらに結んだもの。参加者がリボンを結んでいきます。私たちが立つこの場所について思いをめぐらす作品でした。

デザイナーのimaさん(小林恭さん・マナさん)が今年から始めたプロジェクトは、住民の人々から受注生産をうけるというもの。例えばベランダの柵を新しくしたいという要望をうけて制作されたこちらの作品。いわば1対1のコミッションワークであり、住民が家で困っていることをデザインで解決しようという考え方は、デザインができることを改めて見つめた、新たな試みです。

岸本真之さんは「つぎつぎきんつぎ」シリーズで、住民から集めた茶碗を金継ぎでつないで作品化。展示終了後は住民の希望者に作品を引き渡したそうです。

住宅街をツアーで歩いていると、ところどころで住民が声をかけてくれて、アーティストと住民の方の間で立ち話に花が咲きます。コミュニケーションもしっかり取れていて、このプロジェクトがまちへ根を下ろしていることが伺えるツアーでした。

AOBA+ARTの特徴はまず何と言っても、アーティストが自らの手で発表の場を社会のなかに築き、住民とつながって、リアルな「まちなかのアートイベント」を実現しているということ。それは自治体のまちおこしや観光とつながって開催されている多くのアートイベントとは一線を画してきました。ところがこのプロジェクトのすごいところは、その「アーティストによるアクション」だけではありませんでした。
ひとつには、「運営側の新陳代謝がある」ということ。実は今年、これまでディレクターを務めてきた本間純さんやimaの小林さんの間では、開催を断念しようとしたそうです。それはアーティストが自ら手綱をとり、調整を図ることがとても困難で作品を作る前に疲弊してしまう部分があったから。しかし、そこをこれまでサポーターとして携わってきた海老澤彩さんたちが、だったら私たちが頑張ります、と手を挙げてくれたそうです。実はこれが4年目の充実へとつながります。まだ若手で経験の少ない彼女たちの頑張りを支えようと、住民、アーティストがさらに結束したように私には見えました。こうして若手へ引き継がれ、新陳代謝することのできるアートイベントとなれば、イベントそのものが命を宿した生きもののように、いきいきと継続されるものとなるでしょう。
もうひとつには、このプロジェクトを通して「地元の人たち同士がつながり、親睦を深めている」ということ。これは言葉にすると簡単ですが、案外難しいことなのではないでしょうか。「まちなかでアートを展示する」ということが、一体誰のための、何のためのものなのか。パブリックアートに携わる人間として、しみじみと深いものを感じました。

クロージングパーティは自治会館。アーティストも住民も交じり合って関係者一人ひとりが想いを語り、笑いにあふれた会であったことが何よりもその意味を明確に示しているように思いました。

担当:天野