広島市の中心部、八丁堀エリアに2017年12月に竣工したスタートラム広島ビルは、日本生命と広島電鉄が隣接する各々のビルを老朽化に伴い取り壊し、新しく共同で1つのビルに再整備したオフィスビルである。ビル名は日本生命(日生=星=スター)と広島電鉄(路面電車=トラム)を合わせて名付けられ、八丁堀のランドマーク的存在の建物となった。
地上階、正面入口から広い吹抜空間のエスカレーターで2Fに導かれた先は左に店舗利用者、右にオフィスワーカーを振り分ける要所で、入居するオフィスのエントランスの役割も果たしている。その要の空間にアーティスト谷山恭子がデザインを施した。
共同プロジェクトの絆を深め、アイデンティティを刻む建築と一体化されたアートワーク
北緯34 度23 分41.57 秒、東経132 度27 分42.16 秒。
百年以上にわたり、人の命を支え、生活を支えてきた日本生命と広島電鉄。
ガラスに映り込む星の地点の緯度経度の座標は、世界にたった一つの、日本生命と広島電鉄ゆかりの土地の座標である。床には広島電鉄を象徴するレールが埋め込まれ、ガラスの向こうまで伸びているように映り、ハーフミラーガラスに映り込む真鍮は、星(日本生命)を形作った。手仕事で仕上げられた黒い曲面の左官壁には、0.01秒ごとの経線が立ち上がり、長短の真鍮のラインで目盛りが刻まれている。この作品は、その星の座標点を「現在」と見立て、この土地で変わりなく人々を支えてゆく二社の、過去から現在、そして未来へと続く道のりを現す。
ビジネスシーンの会話のきっかけになることを意識したアートワーク
エレベーター乗り継ぎ階11Fエレベーターホールの壁面には、漆作家、石塚源太の作品を配した。漆の漢字(氵:さんずい)の成り立ちに表れるように制作工程において水と深い関係のある漆という素材の選択は「水の町、広島」が根底にあり、さらに作品中の縫い針は、日本一の針の生産地である「広島の縫い針」を使用し、地域を意識した作品となっている。この作品はカッターナイフの刃、縫い針、ワッシャーなどの金属片が漆塗りの平面の中に塗り込めいて、漆黒の中に浮かぶこれらの金属片は宇宙の様でもあり、このビルのスタートラムという名前にも繋がる星のようでもある。またこの作品は、異素材同士が共存している。この様は、日本生命の「共存共栄」のテーマや、素材同士の繋がりという見方では、人と場所を「繋ぐ」役割を担う広島電鉄の様でもあるアートワークとして表現された。
地域を意識した作品は、この場を訪れるビジネスパーソンの会話のきっかけになることを願っている。
- 施設名称
- スタートラム広島
- 建築主
- 日本生命保険相互会社・広島電鉄株式会社
- 所在地
- 広島県広島市中区八丁堀
- 主要用途
- オフィス・店舗
- 完了年度
- 2017年11月
- 建築設計
- 株式会社 久米設計
- アートディレクション
- 株式会社タウンアート
- アーティスト
- 2F:谷山恭子、11Fエレベーターホール:石塚源太
- 施工
- 鹿島建設・大林組・広電建設・鴻治組 共同企業体
- その他
- タイトル 2F:In Future 2017、11F:Stellar Dance 2017